5歳のときに酒田を出たぼくは、残念だが昔の『山王祭』を憶えていない。 今の祭りは昔ほどの趣はないといわれるが、東京に住むぼくには驚くばかりの祭りである。
若い酒田衆の溢れるばかりの バイタリティーがぼくの膚にひびいてきた。
お祭り広場にぼくは相馬市長(当時)とならび、こけし人形そっくりの 愛くるしいミス酒田から一尺余の大盃にお酌され、 7年ぶりで酒を飲み込んだ。息子と弟子が見ていぬ瞬間のことであった。
酒はキューッと喉に滲み、ついで五臓六腑をに滲みこんでいく。 あ、ああ、甘露甘露、この旨さはほかで味わう隙をあたえないものがある。 7年ぶりの酒は効いた。あたたかくなった頬に太鼓の音がひびく。
60年目にぼくはふる里の祭りを知った気がした。
― 土門拳「六十年目のぼく」より ―
上下(かみしも)両日枝神社の山王祭礼が合同で行われるようになったのが、 今から約340年前。祭礼当日、神宿頭人は裃に刀をさし、馬に乗って市中を行進し、町奉行と同等に式台の儀をかわしたといいます。 そのためには千金を投じても惜しくないとする町人魂が、祭を支えてきました。
雲をつく高さの山車も消えて(最近になって復活しました ^^)、酒田祭りと名称も改めましたが、 根底に流れる浜っ子の心意気は変わらず、赤黒二つの大獅子頭をメインに、祭は一段と華やかさを増してきました。毎年5月20日開催です。