上喜元 研修日記 1997年3月12日~15日

先日、上喜元(酒田酒造)に造りの勉強に行って参りましたので報告いたします。 期間は2/13~15まで行きました。 同じ市内なので泊まり込みでの作業はありませんでした。

昨年は出羽桜山形工場で一週間の研修があったので、造りを手伝っていると 微妙な蔵元の造りの癖が見え隠れして面白かったです。 このレポートでも比較してしまいがちになっていますがご容赦下さい。


初日は主に仕込みタンクのほうの作業を行いました。 櫂棒は出羽桜のものよりも古く木製のものでした。 (出羽桜ではプラスチック製のものです)
上喜元は仕込みタンクが密閉式のものです。 解放タンクと比べてまんべんなく櫂入れするにはコツが必要かもしれません。


タンクのサイズは3tタンクと1tタンクです。
吟醸・純米などは1tタンクで行います。 醪タンクの担当の方は伊藤さんという方です。


午後は洗米などを行いました。 上喜元の場合、洗米機があり秒数をはかりながら洗米・浸積をします。 大吟醸などの仕込みが既に終了しているため手洗いでの洗米は
ありませんでしたが、なかなか重労働です


。洗米も蒸米もかごにわけて行うのですが、全て一つずつ重さを計り 計算していきます。かなり細かい計算を行っているように見えます。


3時頃に一度休憩があるのですが、出羽桜との最大の違いは やはり蔵人の方々の平均年齢でしょう。 杜氏の佐藤正一さんは50才くらいですが、造りの方の中では
どちらかというと若いほうに入ると思います。 一人一人年齢を聞いていないので私の想像なのですが(^^;)60代(男2 女1) 50代(男3)
40代(男1 女2) 20代(男1) という感じです。 後継者不足は深刻な問題だと思います。


また、酒田市の中心地に唯一残った蔵元なので敷地が狭く
(...といっても1000坪はあると思いますが)十分な作業スペースが とれないのも問題としてあると思います。酒母室は蔵の2階にありますが、太い綱を使って人力でタンクを引き上げたり
しています。これはかなり力が入る作業ですし危険でもあると思います。


さて、次の日は蒸米の作業もしました。 恐怖の(^^;)放冷機の作業が私を待っていました。 出羽桜山形工場では放冷機の横に立って蒸米の塊を細かく砕く作業を
行ったのですが、あれで手がぼろぼろになった苦い経験があります。 またキーボードが打てなくなるのかと思いました。


ところが上喜元の場合は指が痛まないのです、蒸米を触った感触が
出羽桜とはあきらかに違います。 出羽桜の場合は米が放冷されて固くなった状態で出てくるような気がするのですが 上喜元の場合は出羽桜よりも若干柔らかく感じます。


出羽桜の場合は放冷機の作業が終わると放冷機内に米の粒がかなり残るのですが 上喜元の場合はほとんど残りません。 米は水分が少なくほぐれ具合が良い割に、蒸米があまり固くありません。これはそれぞれの蔵元の造りの設計によるものなので
私のような素人は何を意味するのかまではわかりませんが、 出羽桜の放冷機しか知らない私には不思議な感じがしました。


麹室での切り返し作業もありました。 ここで蔵人が工夫した切り返し作業を体験できました。 まだテスト段階なので実用するかはわからないそうですが、
切り替えし機を使わずにめの粗い金網を使って 金網の上で麹米をこするようにして麹米の塊をほぐすのです。


杜氏さんと麹屋さんの話では切り返し機を使うと
麹米の温度が下がるのでよい方法はないかといろいろ試している最中 なのだそうです。 基本的に特殊なお酒(大吟醸等)を除けば床麹なのですが、棚に寝かせる
ときなどは麹箱(麹蓋よりも大きい)を使っています。 温度調節がやりやすいのかもしれませんね。


杜氏さんは醪の状態(主に温度など)や麹の状態、蒸米の状態などを 全てチェックしていろいろ計算を行います。 杜氏さんは蔵のちょうど真ん中あたりにある検査室のようなところで
計算を行ったりして、ときおり蔵の様子を確認しながら作業を行うといった 感じです。


私がたまたま計測した結果を持っていったときは蔵人と杜氏さんが
二人できき酒をしていました。 お酒は出荷前にブレンドして酒質を安定させるのがほとんどですが、 そのブレンドの比率をいろいろ試しているようです。
私もきき酒させられて意見を求められました。


3つほどお酒があったのですがなんのお酒かわからないので緊張しました。 一番左は好きな香りがしたので「よい香りですね」 真ん中は味わいにとても幅があったので
「最初のより香りがないですが味がよいですね」 一番右は香りと味が左のものに似ていたので「左のに似ていますね」あまり喋るとぼろが出そうなのでそれぞれ一言しか言いませんでした。


結局、左のものと右のものはブレンドの比率が違うだけのもの(山田錦40%) 真ん中のものは酵母が違うお酒なのだそうです。ということで杜氏さんは不敵な笑みを浮かべて「結構わかるじゃない」と
仰ってくれたのでとりあえず及第点というところでしょうか。 これ以上ここに居るとぼろが出そうなので、すぐに作業に戻りました。(^^;)


上喜元は搾りの機械が二つあります。 一つは昔ながらの槽(押し槽)とヤブタ式の槽の2種類です。押し槽は出羽桜で経験済みなのでヤブタ式の槽が触れるのはなんとなく
楽しみでした。 結論から先に書いてしまうと「ヤブタ式は楽」です。(^^;)押し槽の場合は醪を袋に入れて重ねていく作業もたいへんですが、 搾り終わった酒袋を取り出す作業も楽ではありません。


機械の横にたって粕をとりながら手元のリモコンで 一枚一枚アコーディオンカーテンのようなものをはがしていくのですが 結構楽しいです。(^^;)
粕を剥がすのも取っ手の付いたプラスチックの下敷きのようなもので 剥がしていきます。


上喜元では昔ながらの槽である押し槽も使っていますが、 搾りの作業の前準備もしました。 中に木枠がたくさん組んであるのですがそれを全てサランラップで巻くのです。
理由は「木の香りが付かないように」とのことでした。


本業の酒屋のほうが忙しくなってしまって、造りの体験はここで 終わりです。来年も時間があったら是非行きたいと思っています。
泊まりを体験するのもよいと思います。 最後まで読んでくださってどうもありがとうございました。

出羽桜 研修日記 7日目

さて今日でいよいよ最終日です。 もう今日で終わりとなると俄然頑張ってしまう私...。 (明日のことは考えなくて良いので ^^;)昨日の晩は出羽桜の営業で当店の担当もされている寒河江さんと昨年の 研修から親しくさせて頂いている山形工場の麹担当の吉田さん(25才)と 山形駅前で飲み会でした。


私はそんなに飲めないのに駅前に行く前、既に山形工場で生原酒を 飲んでしまい、既に出来上がっていました。(^^;) 店に着いてしばらくすると不覚にも寝てしまいましたが、
あとで聞いた話では寒河江さんと吉田さんはそれぞれ一升ずつ飲んだとか...。


今日の作業はいつもどおりの作業がほとんどでした。 櫂入れのあとには放冷機の作業がありました、ここまで無事に来たのですが ここに来て指の表面がひび割れて血が出てきました。
それでも去年よりは良い状態です。


最終日となると櫂入れの後のタンク拭きも力が入ります。 もしかしたら今仕込んでいる桜花吟醸はすぐに商品として 入荷する可能性もありますし、本醸造は3年経って枯山水として
も入荷するかもしれません。あのとき見た大吟醸も万禮になるかも しれないお酒も...。そのときまでしばしのお別れです。


昨日も行ったのですが麹室で種付け作業も行いました。 麹菌を広げた蒸米の上に振りかけていくのですが、麹があまりあちこちに とばないように上から布をかけてその中で振りかけます。
山形工場では小さな鍋のような器(底が編み目になっている)で 振ります。


担当の吉田さんは慣れた手つきで均等に振りかけていきます。 私も振りましたがムラができてしまい、とてもあそこまで
綺麗には振れません。 ムラが出きるということはそれだけ床揉み(蒸米に均等に麹菌が いきわたるようによく混ぜる作業)を丁寧にしなければなりません。


出羽桜山形工場では麹担当、酒母担当、洗米担当などおおまかには 決まっていますが、自分の担当外の仕事もかなりの量を行います。 人手が少ないからやらなければならないと言ってしまえばそれまでですが、
担当外の仕事もまかなうということはそれだけ造り全体が見えてくることに 繋がってくると思います。


さて、午前中の仕事が終わってお昼をごちそうになって帰ろうかと 思いましたが、そのときに吉田さんがこの前の4番目の仕込みの 大吟醸の澱引きを行っているのでみていったほうがいいと
教えて下さいました。大吟醸の斗瓶は出羽桜山形工場の中でも一番温度変化が少ない蔵の 中にひっそりと置かれていました。


テーブルの上に斗瓶を置いて下にもう一つ斗瓶を置き、ホースを上の
斗瓶に差し込んで口で少しお酒を吸い上げ(後は自然落下で) 下の斗瓶にお酒を移します。


暗い蔵の中で明かりをつけて担当された井上さんが一人でひっそりと 丁寧に作業されていたのが印象的でした。 このお酒ももうすぐ瓶詰めして火入れを行われます。これで私の一週間の研修は終わりです。
今年は大吟醸の作業を見ることができたのが大きな収穫でした。


大吟醸だからとかあそこまで一生懸命作業を行ったからといって 飲んで旨いかどうかというのは飲んだ人、本人の感じ方に
左右されるのですが、商品を売る立場の人間として現場を見てこられた ことをとても幸せに思います。本当にすばらしい体験でした。


あの時期に研修を受け入れて下さった出羽桜酒造株式会社の皆様に
この場を借りて御礼申し上げます。


また、最後までこのmailを読んで下さった皆様にも同様に御礼申し上げます。 私の文章では伝わりきらなかった部分も多々あると思います。 来年も時間をとって研修に行くつもりですのでその時までの宿題と
させて頂きたく思います。 その時も例年どおり研修レポートを皆様にお届けしたいと思います。


研修中、励ましや質問のmailを頂きました。 毎日の作業の励みになりました。どうもありがとうございました。

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