麓井 蔵見学

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かねてより蔵見学を希望していた麓井酒造にようやく行くことができました。

案内役は佐藤市郎専務。
造りの忙しい時期に無理を言ってすみません。
初孫との兄弟蔵である麓井。
取り扱いは30年以上におよびますが、なかなか見学の機会に恵まれず、念願かなっての初見学となりました。

麓井があるところは庄内平野の北東。
合併前の酒田市でいう八幡町になります。
この辺りは良質の水源として知られ、名水百選に選ばれているだけでなく、サントリーのミネラルウォーターに採用されたこともあります。

今年は全部でタンク57本の醪が仕込まれ、2/25の時点で55本目の仕込みとなります。

吟醸(鑑評会出品酒)は2/28の仕込みです。

麓井の造りは半仕舞い(はんじまい)です。

半仕舞いは2日に1本タンクを仕込んでいくやり方。日仕舞い(ひじまい)は毎日1本タンクを仕込みます。
山形県内の蔵はほぼ全て半仕舞いだと思います。

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麓井の工場は奥に長い平屋造りになります。
スタートは一番奥の釜場(蒸米を蒸す所)から始まり、行程が進んで一番手前が瓶詰めとラベルを貼る製品化の出荷スペースになります。

季節雇用の方を除く通年の蔵人は四名。
製造石数は900石と造りの規模はたしかに小さいのですが、親戚蔵でもある初孫(東北銘醸)同様、麓井も全量生もと造りです。

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この蔵の奥あるのが

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仕込みに使用する米です。
実は今日は麹造りの最終日で、これらの米はこれから仕込むタンクの掛け米になります。

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洗米は酒蔵ではよく見るタイプの洗米機を使用しています。
(中にスクリュー状のプロペラシャフトが入っているものですね)

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それ以外に、水流や泡の力で洗う洗米機も使用しています。
市郎専務は「『泡で優しく洗えます』という宣伝文句の機材なのですが、その効果よりも作業効率が良くなったので助かります」とおっしゃっていました。

この洗米機を使用すると、それまで手回しで4〜5人で行っていた洗米作業が一人で行えるとのことです。

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こちらは多くの蔵元で見られる限定吸水用のザルです。
ストップウォッチを片手に目的の吸水値になるように浸漬(しんせき)作業をするためのものです。
量が多い時にはザルを並べて30秒ずつどんどん洗っていくそうです。

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麓井の甑(こしき・和釜)の熱源は、よく見かけるA重油を使ったバーナーではなく、ボイラーです。
市郎専務が造りに入る前(?)は昔のバーナーも使われていたそうです。

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市郎専務曰く「トロピカルな色合いの放冷機」。
この色は蔵人が自分たちで塗ったものだそうです。

放冷機は幅がやや細めですが、二段になっていて長さが長いものになっています。
二段がけの放冷機は私は初めて見ました。

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蒸し米を保温したまま送る機械です。エアーシューターに保温効果をもたせたイメージですね。

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ここが麓井の心臓部である麹室(こうじむろ)です。
天井が四角でなくかまぼこ型で木造りです。
この室も工夫がたくさんです。

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送風機付保温箱で万力で圧力を掛け、定期的に送風を行っています。
麓井ではほぼ全部の酒でこの麹製法を使用しています。
酒蔵御用達のハクヨーですね。

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量が少ない時は隣のステンレス貼り部屋で箱を使って製麹を行います。
この部屋は先程の室の隣に新築され、扉一枚で行き来ができます。

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高価なオゾン発生装置の効果のほどは?
お値段は競技用自転車が買えるくらいだそうです。
はい、市郎専務は自転車も乗ります。

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こちらは枯らし場(出来上がった麹の熱を取り乾燥させる場所)です。

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麹蓋がたくさん積まれていました。
ミと書いてあるものは麹を入れることが出来るもの、フタは痛みもあって蓋としてしか使えないものです。

麹蓋はたいへん貴重なもので、どこの蔵元も修繕しながら限界まで使っています。
もう作れる職人が居ないのです。

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出来上がった麹を少し食べさせてもらいました。

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蔵元の麹室の前に必ずあるこれ。
作業主任者は市郎専務でした。

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酒母室にやってきました。
どぶろくを濃くしたような、すっぱい香りが充満しています。
生もとですから乳酸バッチリできて来ている香りなのかも。

生もと(きもと)造りというと、なんといっても初孫ですが、親戚蔵の麓井も生もと造りは得意です。
しかし、今回の訪問で全量生もと造りになっていることを初めて知りました。

私がこの仕事をし始めたときは、麓井はたしか全量生もとではなかったはずです。

市郎専務にそのことを尋ねると4〜5年前から全量生もとに切り替えたとのことです。

生もとと速醸もとと二種類を使う蔵元の場合、酒母室を別の部屋にわけたり仕切ったりする必要がありますが、
全量生もとであればその必要はありません。

麓井の酒母室は初孫同様、この一部屋だけなのです。

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この日に仕込まれていたのは雄町。
麓井の雄町はとてもレベルが高いのです。
酒母をたててから22日目(生もとにしてはかなり早いタイミングです)で使うため、
温度を下げて発酵を遅らせている状態です。

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仕込み部屋にやってきました。

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麓井は開放型のタンクが多いです。

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2月25日留めをうった普通酒のタンクです。白濁していて泡は出ていません。

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そのとなりの3日目のタンクは泡が上がってきていますね。

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タンクのふちから下は比重の重い炭酸ガスで充満されています。
顔を入れようものなら酸欠で気を失い、そのまま溺れて亡くなる事故もあります。
本当に危ないで市郎専務から指導が入りました。

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こちらは大吟醸(鑑評会出品酒)のタンク。
「どうしてもクリームのような泡になって見栄えしないんですよね」と市郎専務は仰っていました。
当然この後は雫採りで採取します。

麓井の場合、雫採りは斗瓶で5本とれそうで、深夜1時~3時で1本目がとれます。
本命は1~2本目です。
1本のタンクのうち25%弱が吊りで採取され、残りは槽で搾りなおします。

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搾りは薮田です。
以前の佐瀬式の押し槽も蔵の奥にありましたが、現在は使うことはないそうです。
PP板。昔はアルミ板で漏れやすかったそうです。

ここで市郎専務から薮田についてワンポイント情報。
どうしてもアコーディオンカーテンのおばけみたいな形状から、横から圧力をかけて押して搾るように見えてしまって勘違いされている方が多いのですが、
実際はポンプの力で醪を圧送し、圧力で板が開いて漏れないように抑えているのが薮田式の圧搾機です。

つまり横からぎゅーっと押して搾っているのではなく、ポンプのちからで圧力をかけて濾しているのが薮田式の圧搾機なんですね。

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薮田の横には高橋元杜氏が!
御年70を超えても、まだまだ現役です。

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異物混入等を見逃さない検品と、出荷作業。
こうして銘酒麓井が完成します。

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IWC2018で部門最高賞に輝いた純米吟醸 山田錦。
今回は今年の山田錦の火入れと無濾過生を試飲させていただきました。

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淳司社長の奥様であり市郎専務のお母様。
いつもやさしくて、丁寧な受け答えをされています。
品のあるとても素敵な方です。
いろいろお気遣いいただき本当にありがとうございました。

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最後にみんなで記念撮影。
市郎専務をはじめ、麓井酒造のみなさんたいへんありがとうございました、
今後ともよろしくお願いいたします。

竹の露 蔵見学

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平成6年から平成26年まで20年間お酒を熟成させる試みだった「古酒二十歳の会」。

木川屋はその事務局と酒の保管を担当いたしました。
その会の発足の前に取り引きを開始した蔵元が竹の露です。

当時は金野社長が御健在で、白露垂珠の銘柄も立ち上がったばかりでした。

古酒二十歳の会への入会をきっかけに、麹室を新造し、量の酒から質の酒へと一大転換を行いました。

白露垂珠の吊雫原酒は当店が金野社長と二人三脚で広めたのが、もう20年も前になってしまいました。

その後取り引きをお休みしていた竹の露ですが、2019年に約20年ぶりに再開をすることになりました。
今回はその勉強を兼ねて、懐かしくも新しい蔵見学となりました。

案内してくださる方は現代表の相沢代表社員(竹の露は合資会社なので正確には社長ではなくこのような表記になります)です。
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相沢さんが最初に案内してくれたのは

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雪が被っている建物。この中に竹の露の一番大事なもの「水源」があります。

竹の露の近くには温泉施設もあるほどなので、水質としては酒造りには難しいはずなのですが、なんと300mを超える深さまでの井戸を掘り、良質の水を確保しています。

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井戸の様子を熱く語ってくださる相沢さん。
当時の苦労がよくわかります。

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これだけいろいろな地質を採取し、水質を確認していったのです。

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水晶の地層から汲み上げられた水は最初はにごりがあり、タンクの底に沈殿物が生じます。
水脈を傷めないように毎時間30リットルの速度で汲み上げられます。

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上澄みを汲み上げて、別のタンクに移す行程を何度も経て、このように澄んだ水へと生まれ変わります。

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この水はこのタンクで貯蔵され、プレートヒーター等で加熱されて

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この充填機で瓶詰めを行い

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飲料水としても販売されるほどです。

酒造りには驚くほど大量の水が使われます。
なので、良質の水源があるところが酒蔵のある場所の第一条件となります。

この水源を確保したおかげで、年間300万円もの水道代がなくなるだけでなく、超軟水の水質は高温長期醗酵にも耐える元にもなるのです。


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竹の露では悪名高い(相沢さんがそうおっしゃったのです ^^;;;) 連続蒸米機を使っています。

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とは言うものの、「これはこれで良いところもあるのです」という相沢さんの言葉どおり、連続蒸米機にも良いところはあります。
その一つが、米ごとの調整が可能なところです。

和釜を用いた一般的な甑(こしき)の場合、下に留め用の大量の掛け米、その上に仲などの掛け米、一番上に麹米などを張り込んで蒸し上げます。

一番大切な麹に合わせて蒸し上げるので、どうしても下の米が水分が多くなりすぎたりすることもありますが、
この連続蒸米機ですと順番にベルトコンベアで処理できますので、細かく修正することも可能なのです。

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もちろん高品質酒の浸漬(しんせき・米を水に浸す)はザルとストップウォッチを使っての手作業です。

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2階にある麹室にやってきました。
ここに足を踏み入れるのは20年ぶりです。
この奥の休憩室で、本木杜氏がタラ汁を作ってくださってみんなで酒盛りしたことを思い出します。
本木杜氏は体調を崩されていて今日はお留守ですが、本当に楽しい夜でした。

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きれいに清掃が行き届いた麹室

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ちょうどこの日も麹が積まれていました。

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竹の露といえば一升盛蓋麹製法。私も20年ほど前にこの作業を体験させていただきました。
酒造りの肝心な行程である麹はこのように丁寧に手作業で造られます。

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酒母室にやってきました。
竹の露の酒母は全て速醸です。

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醪部屋です。

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上に上がって各醪を確認させていただきました。

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この棟の窓からは裏の竹林が見えます。
竹の露の蔵元の名前の元になった竹林ですね。

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どこの蔵にも必ずある神棚。
しかしどこの蔵にも祀られている酒造りの神様(松尾様)の御札がありません。
実は羽黒山も修験道の山。
その名残もあり、以前から祀られている神様が別棟にあるため、松尾様は祀られてないのだそうです。

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数々の種類の酒米が並べられています。
竹の露がある旧羽黒町は米どころ庄内地方でも最も酒米作りが盛んなところ。
酒米研究会も存在します。
その中心にあるのが竹の露です。竹の露の酒米は全量酒米研究会から調達しています。

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蔵人は若い方もいらして、これからの造りも楽しみです。

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こちらは新しく投入された分析機。
かなり高価なものだそうです。今までの設備と異なる点もあるので、これから特性に合わせて使い込んでいくそうです。

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醪(もろみ)の温度経過や行程を説明してくださる相沢さん。
「この醪はこういう変化をして、こっちはこうで...」
まるで自分の子供のことを語るように説明しくれます。

丁寧に分析とデータの蓄積を重ねて醸造する相沢さんですが、それでもなぜこのように醪が推移することがあるのか
わからないこともあるそうで、まだまだ酒造りの奥は深く、そしてたいへん興味深いとのことでした。

真摯に酒造りに取り組まれている様子はたいへん伝わってきました。

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相沢さんの心遣いで、竹の露のラインナップの全種類の酒をきき酒させていただきました。
出品酒から熟成酒までたいへん勉強になりました。

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全国新酒鑑評会を始め、さまざまな賞を獲得している竹の露。

酒・水・米・人全てが地元の「地の酒」です。

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最後にみんなで記念撮影。
忙しいところを貴重なお時間を頂戴して勉強させていただきました。
相沢さんありがとうございます。こづえさんとも久しぶりにお会いできて嬉しかったです。

そして、改めて、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

出羽桜 特約店向け特注酒 仕込み作業

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昨年6月に行われた山形県内の出羽桜取扱店10社のみで行われた特約店会議。
この会議で決定したのが、この10社のみで販売する特殊なお酒の製造です。

全くの白紙から始まった会議でしたが、出羽桜からの提案を受けてこの取組みに参加することを決めました。

このお酒の企画で当初から蔵元にお願いしていたのが、既存の酒を変更したものではなく、
今までの出羽桜にはなかった全く新しい酒を造って欲しいということです。

タンク1本を10社で全て販売しますので思い切ったことをして欲しいとリクエストをしていました。

そのリクエストに応えるかたちで出羽桜が動いてくれました!
今回の酒は、米も酵母も出羽桜では使用したことがないものになります。

今日はその酒の仕込みに参加してきました。

本当は前日から蔵に泊まる予定だったのですが、どうしても外せない用件があり、早朝5:00に出発しました。

安全を取って月山新道ではなく新庄経由で山形に向かいましたが、途中通勤ラッシュにも巻き込まれ、すっかり到着が遅くなりました。
蔵ではもう米が蒸し上がっています。

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しゃがんで麹米が出てくるのを待っているのはフランス人ソムリエのGilles(ジル)さん。
なんと彼は旅費・宿泊費全て自腹で出羽桜にやってきて二週間も真剣に造りの勉強をされています。

この日は研修最終日。
自分が行うべき作業も全て把握されていて熱心な仕事ぶりは感嘆させられました。

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私も釜掘り作業を体験。
蒸し上がった米を甑(和釜)から掘り出す作業ですが、この作業は造りの作業の中でもかなりの重労働です。
慣れている蔵人でも重労働ですから、運動不足の私達酒販店は交代で行います。

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こちらは私の酒造りの師匠であり、同業の酒販店でもある山形市の酒の郷吉田酒店の吉田 健一さん。
もともと出羽桜の製造担当をされていたので作業は現役んお蔵人と全く変わらない仕事ぶりです。

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こちらは仲野社長室長。今回の企画をまとめられています。
今日はコーディネーターとして行動を共にして下さっています。

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私も櫂入れ作業を行いました。
留めの掛け米なので、一時間弱ほどひたすら櫂入れを行います。

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掛け米はエアーシューターを使って送られてきます。

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さすがに吉田さんは絵になります。

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作業が終わって放冷機を清掃。
出羽桜山形工場は建物は古いですが、機器は本当にきれいに清掃されています。

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山形工場の井上杜氏です。
井上杜氏とも長いお付き合いになりました。

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洗い物中のジルさん。

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室仕事も行いました。

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帽子を被った若い方が、出羽桜仲野翔太郎専務です。
今回の酒は専務肝いりの酒となります。

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吉田さんが慣れた手付きで麹を振ります。

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私も真似して。久しぶりの作業です。

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できるだけ均等に麹菌が行き渡るように。

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次の日の仕込みの準備で米を張ります。

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研修生とは思えない慣れた手付きで米をならしていきます。

今回の作業はこれで終了です。
麹のさばけも良く、きっと良い酒に仕上がってくれると期待しています。
今までに無い米・酵母、どちらも現時点では内緒ですが、どうぞご期待ください!

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最後に美味しい蕎麦屋さんでお昼をごちそうになりました。
修行中のフランス人ソムリエのジルさんともお酒事情や日本酒の話などたくさん会話が出来ました。

これからも日本酒の勉強を頑張ってください。
あの頑張りならきっと成功すると思います!

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