鑑評会用の醪(もろみ)もあるでしょうし、仕込みの大事な時期なので、もう少し後の時期に見学しようかとも思いましたが、現場が一番活気づいている時期に見て欲しいということで忙しいところをお邪魔しました。
実は私が楯の川酒造にお邪魔するのはこれで二回目。
サラリーマンを辞めて、この仕事を始めて間もない頃に父(先代社長)とご挨拶に訪れたのでした。
向かって左が楯の川の若き社長、佐藤淳平氏。
隣のスーツの方は昨年暮れに入社したばかりの営業 高橋さんです。
営業の高橋さんは入社間もないのですが、私たちが今日お邪魔することが決まったときも前日に新しく出来た当店の支店に視察に行かれたりと非常に熱心です。
礼儀正しくフレッシュで爽やかなところは社長ゆずりでしょうか。
この日は蔵元が用意して下さった六種類のお酒をきき酒しました。
最初に見学したのが瓶詰め殺菌。
いわゆる「火入れ」作業ですが、楯の川では全てビン殺菌(ビン燗火入れ)を行っております。蛇管(じゃかん)は使わず風味を残したまま殺菌をしているのですが、全量これを行うのはかなりたいへんな作業です。
洗米機を使った洗米作業。
この洗米機、便利なんですよね。
他にも泡で洗うタイプの大吟醸に使う洗米機もあります。
洗米は10kg単位で丁寧に行います。
明日蒸す米を張って準備しているようです。
楯の川の場合、仕込みは半仕舞(はんじまい・一日置きに1本ずつ醪を仕込む)です。
こちらが蒸しに使う釜。
次に見たのが麹室。
現在の酒造りの心臓部ですね。
中は整然としています。
蓋麹ももちろんあります。
大吟などは蓋麹ですが、それ以外の酒も10kg単位の箱麹できちんと造ります。
麹はオーソドックスな製法で、綺麗な仕上がりの酒のために突破精(つきはぜ)タイプです。
社長が麹を食べさせて下さいましたので味見。
酒母室です。
保温のためにアルミテープで目張りされています。
酒母はタンクの下にあんかを抱かせるタイプです。
香りも楽しみました。
次に醪室。
楯の川も少量高品質蔵の例に漏れず、大きなタンクは使わなくなってきてしまっているそうです。1.5tのタンクが最大の大きさですが、ほとんどそれ以下の大きさでの仕込みです。
タンクも覗きました。
楯の川はタンクは開放型です。
このタンクはウオータージャケットが巻いてありました。
ひもつきの蓋は便利ですね。
槽(ふね・圧搾機)は藪田が一基です。
もちろん雫採りも行っています。
ある意味、ここが一番忙しいかも。(^^;)
瓶詰め後、ラベル貼りなどを行う出荷ブースです。
この日も出荷作業でみなさん大忙しです。
忙しくさせている原因がこれ。
楯の川自慢のリキュールの製造機です。
ブレンド調合から火入れまで一環して行える優れものです。
火入れは品温が10℃程度のものをパネルヒーターで僅か3秒96℃まで上昇させ完了という機器です。これのお陰でヨーグルトリキュールの賞味期限が延長され、より安定した品質が維持できるようになったそうです。
楯の川は清酒の醸造石数は600石ですが、自社精米を行っています。
これはその精米機です。
これ一つでお値段一千万円。
ちょっとブレてしまいましたが、このように綺麗に精米されます。
一通り蔵を見学して事務所に戻ってきました。
きき酒用のお酒の温度がさきほどと変わって上がっているので、ここでもう一度きき酒。
毎年、少量をきき酒はしていましたが、年々造りがきめ細やかになっているなぁという印象がありましたが、6種類もきき酒すると印象が確信に変わります。
楯の川の酒は鳥海山系の伏流水を使っている蔵元らしく、清流のような澄んだ味わいが特徴です。「軽い」と一言で言ってしまえばそうかもしれませんが、「軽薄な軽さ」ではなく「軽快な軽さ」です。
その軽快さだけでなく、芯もしっかりとあります。
飲みやすく口当たりがよいだけでなく芯もある。
飲み手の間口は相当広いと言えます。
近い将来、アルコール添加を止め、全量純米以上の仕込みにする考えもあるとか。
若き社長のもと、田代杜氏をはじめ、蔵人・営業ともに生き生きとがんばっていました。
楯の川の酒は若々しく、フレッシュで、フットワークの軽く(軽快感のある)、しかも芯がある酒です。
どこか淳平社長の人柄とも似ている気がします。
酒は人を表すという言葉を思い出しました。
円熟を重ねて楯の川がどう変化していくのか、これからがたいへん楽しみな蔵元です。